サウサンプトン・吉田麻也は更なる成長を期す CB出身の新指揮官の下、日本代表DFはどこまで成長できるか

(サウサンプトン開幕戦のマッチプログラムは、日本でもお馴染みの『ビッグ・イシュー』とのコラボレーション。紙面には吉田麻也も登場した。)


山場は、時計の針が90分を過ぎた後半ロスタイムに訪れた。スコアは0−0。スウォンジーを圧倒しながらネットを揺らせずにいたサウサンプトンが、90+2分に直接FKを獲得した。


ボールの周りにドゥシャン・タディッチ(セルビア代表)、スティーブン・デイビス(北アイルランド代表)、ソフィアン・ブファル(モロッコ代表)の3人が集まると、少し遅れて吉田麻也が輪の中に入る。吉田が何かを告げると、3人はゆっくり離れていき、日本代表DFがボールをセットした。距離はゴールまで約25メートル。


吉田が右足で放ったFKは、カーブの曲線を描いて壁を超えていったが、わずかにゴールポストの外にそれた。声をあげて悔しがる吉田。しばらくして、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。


シュート数はサウサンプトンの29本に対し、スウォンジーは僅か4本。ポゼッションでも60%を記録しながら、0−0でサウサンプトンは勝ち点3を掴めなかった。試合後の吉田も、悔しそうな表情を浮かべて試合を振り返った。「どう考えても勝てた。ほぼ試合の主導権を握ってプレーしていたんで。点を決めるべきだったとは思いますけど、それもまあサッカーかなと思います」


前半にボレーシュート、後半も本人が「一番手応えがあった」というヘディングシュートからゴールを狙った吉田だが、いずれも決めきれなかった。ただ、得点を挙げる責務は当然、攻撃陣にあった。チャンスの山を築きながら、サウサンプトンはゴールを奪えずにいた。


そんな苛立ちと焦りから、最後のFKは吉田が自ら志願したのではないか──。記者席からはそんな風に見えたが、実際は新監督のマウリシオ・ペジェグリーノから指示が飛んでいたという。「(ゴールまで)ちょっと遠く、距離があったので、『ファーサイドに蹴って折り返して、セカンドボールを拾おう』って話をしていたら、監督が『(マヤが)行け』ってジェスチャーで伝えてきた。キャンプの時から良いFKを見せていたので、それが効いたんだと思います。あれを決めていたら、これから楽にフリーキックを蹴る権利を得ていたんですけどね…。FKを蹴ったのは、このチームでは初めてです」


殊勲の決勝ゴールを挙げていれば、吉田がMVPに選ばれていたはずだが、最高のシナリオにはならなかった。だが、最重要タスクとなる守備では、盤石のディフェンスを見せた。チェルシーからレンタル移籍中のイングランドU−21代表FW、タミー・アブラハムを要所要所でブロック。28分には193cmを誇るアブラハムに空中戦で競り勝ち、59分と73分も彼への縦パスをインターセプトした。スウォンジーを無失点に抑え、CBとして重責を果たした。


それでも吉田は、クリーンシートを「最低限の結果」と厳しく自身を評価する。「最低限、そこだけはなんとか求めたいと思っていたので。(CBでコンビを組む)ジャック・スティーブンスとは試合を通してずっと話していましたし、試合前ももちろん話していましたし。そこは最低限。今日の相手に対しては、そこは『必ずこなさないといけないノルマ』と思っていました」


とはいえ、チームと吉田の風向きは決して悪くない。サウサンプトンにとって不本意な開幕戦となったが、ペジェグリーノ監督が志向する攻撃サッカーが機能し、試合内容は昨シーズンに比べると大きく改善しているからだ。パスワークに磨きがかかり、ファイナルサードに入ってからの崩しのバリエーションも増えた。プレスの強度も高まり、試合中には選手のポジションを細かく調整するペジェグリーノ監督の姿もあった。


吉田は言う。「(昨季に比べて)ボールを保持する時間が長くなったし、より前方からプレスをかけるようになった。そこは昨季と大分変わった。プレシーズンを通して感覚的にもすごくいいですし、監督がやろうとしているサッカーも『すごくいいな』と感じているので、客観的に見ても良いシーズンになると見ています。監督は『ここに人が動いたら、ここに人が行く』とか、理論的に説明してくれる。感情論とか感覚でしゃべってないので、すごく分かりやすいですね」


バレンシアやバルセロナ、リバプールでプレーした現役時代から理論派として知られていたペジェグリーノ監督は、引退後、ラファエル・ベニテス監督のアシスタントコーチに従事。知識と経験を積み重ねると、昨季はリーガのアラベスで指揮を執った。CB出身の監督だけに、ポジションの重なる吉田への指示は細かく、その要求も高いという。「ボディポジションや姿勢、足の運び方まで、結構細かく言われているんで。僕にとっては、すごくプラスになるんじゃないかなと思っています。(筆者:監督から強く要求されることは?) ビルドアップも含めて全部ですね。モダンフットボールに必要なことをすべて要求されている。『この監督のもとで、すごく成長できるのではないか』という期待が大きいです」


細かい指示は、吉田への期待の表れだろう。試合終盤に新指揮官から託された直接FKも、その証拠である。昨季後半戦からレギュラーに定着し、今季は「昨季以上のものを求めてやっていきたい」と吉田が力を込めるように、CB出身の新指揮官のもと、日本代表DFはどこまで成長できるか。


プレシーズンマッチのセビージャ戦で痛めた左大腿部も「全然、大丈夫です。相手の膝がちょっと入っただけで、練習も1日しか休んでいないので」。さらなる成長を期して、吉田麻也のプレミア挑戦6季目が幕を空けた。

(取材・文/田嶋コウスケ)

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