レアル・マドリー戦が常に特別な試合になる理由……ユナイテッドにとってマドリーは因縁の相手

 マンチェスター・ユナイテッドサポーターにとって、レアル・マドリーは因縁の相手だ。対戦相手として敗戦を喫した過去もあるが、それ以上にデヴィッド・ベッカムやルート・ファンニステルローイ、そしてクリスティアーノ・ロナウドなど、元エースの移籍先のクラブであるというのが大きい。

 客観的に振り返ると彼らの移籍の原因は、一方的に強奪されたわけではない。マドリーも恣意的にユナイテッドから選手を引き抜いているわけでもない。


 とはいえ赤い悪魔の元エースが対戦相手として躍動する姿を見るのはサポーターとしては複雑。現在も絶対的な守護神であるダビド・デヘアの移籍の噂が絶えず聞こえてくる。意識しないというほうが無理な話だ。


 ただ、改めて振り返るとアカデミー上がりの秘蔵っ子よりも、オランダ産の9番よりも、チームにとって痛手だったのは、自己顕示欲の強いポルトガル人のマドリー移籍かもしれない。


ユナイテッド時代のロナウド

 2003年にスポルティングから加入したウインガーは、当初は心身ともに未熟だった。線が細く度々当たり負けし、悪いパフォーマンスの試合では涙を流して「クライベイビー(よく泣く子)」などと呼ばれていた。無駄なフェイントを多用するプレースタイルも、ベッカム後の7番にふさわしいのか疑問視する声を後押しした。


 それでもロナウドの能力を疑わなかったサー・アレックス・ファーガソン監督は、05-06シーズン末には、この若手ウインガーと対立したオランダ人ストライカーをマドリーに放出。同年シーズン後、ドイツ・ワールドカップのイングランド対ポルトガルの一戦で、クラブではチームメイトのウェイン・ルーニーをロナウドが挑発し退場に追いやった際も、二人の仲をとりもつ。同時にサポーターによる様々な批判からも、才能溢れる若者を守った。


 監督は慧眼だった。我慢しながら起用し続けたかいあって、2006年の新シーズンにロナウドは一皮むけ、得点に繋がるプレーが増え始める。それまでシーズン一桁しかゴールを記録できなかった選手が、この年すべての大会合計で23ゴールを記録し、プレミアのタイトル獲得に貢献。翌年には42ゴールを記録し、2年連続のリーグ優勝、そして9年ぶりのチャンピオンズリーグ優勝に貢献した。個人としてもバロンドールを獲得し文句なしの1年となった。


蜜月の終焉、そして

 この頃から噂は流れていた。彼には白い巨人の一員になるという夢があると。そうして翌07-08シーズンのシーズン後、ロナウドは正式に移籍を志願し、あっさりとマドリーへと活躍の場を移した。当時、史上最高額の117億円という大金を残して。


 あれから10年、スピードは衰え突破力は失った。それでもスコアラーとして第一線で、因縁のクラブで活躍している。


 一方ユナイテッドでは、アタッカーとスコアラーと役割をこなしていたポルトガル人FWの後任は未だに見つかっていない。その後のチームビルディングに大きな影響を残した。


 それでもユナイテッドサポーターは彼へのリスペクトを捨てきれない。実際、12-13シーズンチャンピオンズリーグベスト16の2nd leg、初帰還だった元エースに対してオールドトラッフォードへ詰めかけたサポーターは試合前に惜しみない拍手を送る。そして試合開始直後、はち切れんばかりの大きなブーイングをお見舞いした。


 ユナイテッドにとってマドリーは因縁の相手だ。両者の間には忘れられぬ歴史がある。だからこそ、スペインの強豪を相手にする試合は、毎度、特別な一戦になるのだ。

文・内藤秀明

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