マンチェスター・ユナイテッドには長らく典型的な9番が不在だった。正確にいえば定着しなかったといったほうが正解だろうか。
たとえばトッテナムから加入し、2008年から2012年まで赤い悪魔の一員として戦ったディミタール・ベルバトフは元来、典型的なストライカーである。
ただし見ている者の背筋が凍るほどの繊細なボールタッチと、抜群のシュートテクニックを持つ元ブルガリア代表FWは、時折最高のゴールを決める一方でイージーなシュートを外した。
選手全員が組織のためにハードワークすることが求められるユナイテッドのスタイルにフィットできなかったようで、大事な場面ではいつも疲労困憊でプレー精度を落とした。最高の選手ではあったが、決めるべき場面で、決めるべきゴールを決められない選手を9番として認めるのは残念ながら難しい。
その点、ロメル・ルカクは違う。
ベルバトフほどのテクニックはないが屈強なフィジカルを持ち、ジョゼ・モウリーニョ率いるフィジカル面を重視するサッカーに即フィット。リーグ戦で11試合7ゴール、チャンピオンズリーグでも4試合3ゴールと最高のシーズンの入り方を見せた。
ルカクの武器と課題とは
ベルギー代表FWの武器はパワー、スピード、高さすべてを兼ね備えている点だ。すべてがトップレベルの選手というのは世界中見渡してもそういない。そのパワーをいかして前線でボールをおさめることができ、スピードもトップクラスのためスペースに放り込むロングボールにもいち早く反応ができる。そして意外にも強いキックを正確に蹴れる。だからミドルシュートも決められる。
だが一番の武器は空中戦かもしれない。とにかく無理がきくフィジカルで、跳躍状態でいとも簡単に体勢を変えることができる。そのため、勢いのないクロスでも体をねじって頭を打ち付け、一切可能性を感じない場面を得点シーンに変えることができる。
一方の課題は、抜け出す動きはうまいのだが、パスワークに絡む際のオフザボールでのポジショニングが最適とはいえない点だ。
それでも以前よりは成長している。ついこの間まで裏に抜けることしかできていなかったのが、今では縦パスを受けるとフィジカルを生かしてキープした後サイドに展開する、などのプレーが増えている。
下位チームばかりに得点をとる「雑魚専」という批判の声は無視していい。確かにトップクラスの試合では既に述べた位置取りの問題で消える傾向にあるが、それも改善に向かっている。
そもそも大舞台自体は強い。そうでなければ15-16シーズンFAカップ準々決勝、チェルシー戦で見せたドリブル突破で4人をごぼう抜きし、決勝点を決めるといった芸当ができるわけがない。
何よりユナイテッドではまだ初年度だ。今後さらにチームにフィットし、ポルトガルの名将の元で能力的な成長を遂げれば、ますます「アンストッパブル」な選手になれるはずだ。
文・内藤秀明
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