300点超えよりも注目すべきはその“姿勢” 宇野昌磨、理想のスケートでGPファイナル進出へ

 表現力とジャンプ。フィギュアスケートに欠かせない2つをどちらも究めようとする宇野昌磨の姿勢が現れたのが、グランプリシリーズカナダ大会だった。

 グランプリシリーズ初戦となるカナダ大会に、宇野は今季初戦で初めて成功させた4回転サルコウには挑まず、表現力重視で臨むことを表明していた。以前「ジャンプもですけど、やはり僕は表現で皆さんの記憶に残れるような選手になりたいなと思っているので、表現ももっともっと頑張らなきゃ、と思っています」と語っていた宇野。


 シニアデビュー以来、次々と新しい種類の4回転を習得することで躍進する一方、こだわりを持つ表現力を磨きたいという意志を常々示し続けている。カナダ大会のショート、ビバルディ作曲「四季」の「冬」に乗った宇野のスケートには重厚さがあり、強い目線で滑る姿には貫禄すら感じられた。ジャンプでも、後半の4回転トゥループ-3回転トゥループのセカンドジャンプが2回転になったものの大きなミスなくまとめ、自己最高に迫る103.62点で首位に立つ。表現面の評価を示す演技構成点で項目により10点をつけたジャッジもいたことは、宇野の表現力が世界トップレベルの評価を受けていることを表すものだ。


 宇野はショートの前に「体が動きすぎる」と感じていたという。「ショートでこれだけ動いた次の日、どれだけ疲れるか分からないですけど、しっかりできる限りの調整をして明日に備えたい」として臨んだフリー。4回転を4本、しかもそのうちの3本を後半に組み込む構成で、シーズン前には宇野自身「今一番足りないものが体力」としていた。しかし、同時に宇野は「体力をつけるというより、疲れているところで跳べるようにするのが重要になってくる」と、その課題を正面突破する意気込みも明らかにしている。


「体力をつけるというと最後まで楽に滑る、というイメージなんですけど、僕はきつくてもその中で跳ぶ(イメージ)。(4回転)ループもフリップも、万全の状態じゃなくても跳べるようにしたい」


 フリー冒頭の4回転ループは成功、しかしその次の3回転ループでは着氷で前のめりになる。また後半最初の4回転フリップでは着氷が乱れ、続いてコンビネーションジャンプの予定だった4回転トゥループでも手を着くかたちになり、セカンドジャンプをつけられなくなった。しかし、宇野の強さが発揮されたのはここからだった。


 宇野は、コンビネーションジャンプに強い思いを抱いている。昨季のグランプリファイナルで、ジュニア時代から競ってきた2位のネイサン・チェン(アメリカ)にセカンドジャンプをつけられなかった分の点差で敗れ、3位に終わっているからだ。その後すべてのジャンプをコンビネーションにする練習を試みたりもしてきた宇野は、このカナダ大会のフリーでも後半3つのコンビネーションジャンプを跳ぶことを目標としていた。1つ目は失敗に終わったが、単独の予定だった次の4回転トゥループに2回転トゥループをつけてリカバリー。続いてトリプルアクセル-1回転ループ-3回転フリップ、3回転サルコウ-3回転トゥループとすべて成功させていく。


 5大会連続でショート・フリーの合計点を300点代に乗せた宇野は、万全でない状態でもやるべきことはやり切れるだけの気力と体力を身に着けつつある。19歳の宇野の強さは、古風な「気合い」に支えられている部分があるのかもしれない。


 自らの求めるスケートを追求し、粘り強さも発揮して圧勝したカナダ大会を終え、ファイナル進出がかかるフランス大会に出場する宇野昌磨。300点という点数上の目安よりも注目すべきなのは、技術面・芸術面で妥協せず理想のスケートを追い求める宇野の姿勢だろう。

文・沢田聡子

写真・AFP/アフロ


 宇野昌磨選手が出場するグランプリシリーズ・カナダ大会の模様は、AbemaTVで20日に放送される。


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