帰ってきた宮原知子「大会を重ねるごとに少しずつ上げていければいい」 スケートアメリカは平昌五輪への大切なステップ

「名前をコールされた時に本当にたくさんの声援を頂いて、やっぱりこういう舞台に自分はしっかり戻ってこないといけないなという気持ち、あとまた滑れて嬉しいという気持ち、すごくいっぱい湧いてきました」


 11カ月ぶりに戻ってきた宮原知子の背中を、会場の声援が後押しした。昨季の全日本選手権後、左股関節の疲労骨折のため競技会に出ることがかなわなかった宮原の存在感は、その不在によって改めて認識されたともいえる。


 地元開催のNHK杯で復帰を果たした宮原だが、濱田美栄コーチは大会終了後「実はこの試合に出そうかすごく迷っていて」と明かしている。「ジャンプを跳び始めて1カ月なので、地元の舞台でできなかったらかえってショック」と懸念してのことだった。


 宮原の怪我は、今までひたむきに努力してきたことでかかっていた負担が一気に表出した結果だったようだ。「骨折が治ったら大丈夫なのかなと思っていたんですけど、なかなか手強かった」と濱田コーチは振り返っている。最初に負傷した箇所は治っていたが、また新たな怪我が出る徴候があったため、平昌五輪代表選考がかかる全日本選手権での完全復帰を目途にいつまで体を回復させるかを考慮していたという。


 全日本選手権の前に1試合は出場させたいと考えていた濱田コーチには、グランプリシリーズ2戦目・スケートアメリカを復帰戦にするプランもあった。しかし、「NHK杯が近づくにつれて調子も上がってきていたので、ここまできたら出たいなと思って」という宮原の意志もあり、出場を決める。「知子は芯はしっかりしているだろうと思って出して、結果的にはよかったと思います」と濱田コーチは安堵の表情を見せていた。


 NHK杯の演技が、宮原の本来の力を出し切った内容ではなかったのは事実だ。宮原の自己最高点(合計点)は218.33だが、今大会は191.80にとどまり、順位も総合5位。しかし、現在のジャンプの練習量は昨季の2割程度だということを考えれば、この結果は上出来ともいえる。また表現面の評価である演技構成点(フリー)は、総合2位のコストナー、優勝のメドベデワに次いで3番目に高かった。短期間で獲得することは難しい演技構成点の高評価は、五輪代表選考においても宮原の大きな武器となるはずだ。


 スケートアメリカに向け、濱田コーチは「もう体の方は大丈夫なので、不安はないです。よくなるばっかりだと思います」「もうちょっと攻撃的に持っていきたい」としている。宮原自身も「次もうすぐ頑張らないと、という気持ちが湧いてきました」と意欲的だ。


「今回はできることはできたかなという感じ。また調子を一段上げることができたと思うので、これからスケートアメリカに向けてもっともっと元の状態、それよりも上の状態に持っていければいい。点数的にはショート70点、フリー140点ぐらいは必要かなと思う。去年の自己ベストを超えられるようにいい演技をするのが最終の目標。大会を重ねるごとに少しずつ上げていければいいなと思います」


 何よりNHK杯で印象的だったのは、宮原の表情の明るさだ。昨季まではストイックで感情をあまり表に出さない印象だった宮原が、NHK杯では終始笑顔だった。宮原自身もそれを自覚している。


「特に昨シーズンはちょっと力が入りすぎたというか、自分を追い込みすぎるような気持ちになるときがあったんですけど、今シーズンはせっかくここまでこられたから思い切ってやればいい、という去年よりも少し軽い気持ちで臨むことができています」


 ショート・フリー両方で演じる日本女性のたおやかさとあいまって、滑れることへの喜びが滲み出る宮原の滑りが堪能できたNHK杯。スケートを楽しめる心持ちは、平昌五輪を目指す宮原にとり大きな意味を持つだろう。次戦・スケートアメリカは、全日本選手権に向けもう一歩階段を上がる宮原の大切なステップとなる。

文・沢田聡子

写真・西村尚己/アフロスポーツ


 宮原知子選手が出場するグランプリシリーズ・アメリカ大会の模様は、AbemaTVで26日~28日にかけて放送される。

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