「これ以上辛い試合は今後一切ない」苦しかったフランス杯を乗り越え、宇野昌磨が得た貴重な経験

「いい経験だったかなと思うんですけど、これ以上に辛い試合は今後一切ない」

 カナダ大会後インフルエンザにかかり4日間ふせっていた宇野昌磨は、万全とはいいがたい状態でフランス大会に臨んだ。豊富な練習量で現在のスケートを作り上げてきた宇野にとり、充分練習を積めずに迎えたグランプリシリーズの2戦目はとても厳しいものだったようだ。

 多種類多数の4回転ジャンプを跳ぶ密度の濃いプログラムを病み上がりの体で滑るという難しい状況。不安定な体を「休んでいた分、がんばらなきゃ」という思いで動かしていた宇野だが、やはり本来の滑りではなかった。


 ショートでは冒頭の4回転フリップ、フリーでは後半の4回転トゥループ、トリプルアクセルからの連続ジャンプで転倒。ただ、ショートでは4回転トゥループ-3回転トゥループ、またフリーでも転倒した4回転トゥループに再度挑み、それぞれ成功させて心身の強さを感じさせた。シーズン前、「疲れているところで跳べるようにするのが重要になってくる」と語っていた宇野は、苦境でもジャンプの難度を落とすことなく臨み、課題に正面から向き合っている。


 また、芸術面を評価する演技構成点にも宇野が積み上げてきたものが現れた。ショート・フリーとも、演技の完成度では世界屈指のスケーターであるハビエル・フェルナンデス(スペイン)に次ぐ高得点を獲得。合計点は300点には届かなかったものの273.32でフェルナンデスに続いて総合2位に入り、グランプリファイナル進出を決めている。体調が整わない中で最善を尽くした経験は、宇野の大きな財産となっただろう。


 地力を見せた宇野だが、「日頃積み重ねる練習の大切さを改めて知った」と語っている。


「今までは当たり前にできていて気づかなかったんですけど、それだけ自分の支えになっているのは練習なんだなと。改めて練習ができることに感謝しながら取り組んでいきたいと思った」


 練習量の多さで知られる宇野が、練習の大切さを改めて実感する試合となったフランス大会。「プログラムを数こなして、体に染みついた状態で臨めれば」としている次の試合はグランプリファイナルだ。五輪前に行われる試合としては、世界中のトップ選手が集まる最後の機会となるファイナルで好成績をあげれば、平昌でのメダルも見えてくる。


「地元名古屋でグランプリファイナルが開催されますし、できるだけ期待に応えられる演技をできるようにただただ練習をしたい、それだけです」。


 地元で迎える自身3度目のグランプリファイナルについて、フランス大会後宇野は「自分の演技というものを、今回は本当に辛かったので、次はもう少し楽しめたらいいかな」としている。宇野の強さはよい練習から生まれる。フランス大会から帰国した際、空港でも「早く帰って練習がしたい」と口にしていた宇野は、練習を積んで晴れ舞台に立つ。

文・沢田聡子

写真・千葉格/アフロ

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