グランプリファイナル(名古屋)に出場する樋口新葉・宮原知子は、ふたりとも昨季苦しい経験をしている。樋口は四大陸選手権・世界選手権で実力を出し切れず、宮原は左股関節の疲労骨折のため世界選手権に出場できなかった。辛い時期を乗り越えてファイナルへの出場権を手にしたふたりの強みは、それぞれの個性を存分に生かすプログラムだ。
(写真・アフロ)
なかなか結果が出なかった昨季も、こつこつとシニアらしい滑りを追求してきた樋口の努力が、今季花開いた。樋口のショートは「ジプシーダンス」(マッシモ・スカリ振付)、フリーは「スカイフォール」(シェイ=リーン・ボーン振付)。どちらも樋口のスピード感とダイナミックさ、また近年身につけた繊細な表現を生かすプログラムとなっている。
バレエ「ドン・キホーテ」の曲を使用するショートでは、躍動する樋口の笑顔が印象に残る。映画「007」の主題歌を使ったフリーは、疾走するような樋口のスケート、そしてジェームズ・ボンドのかっこよさとボンドガールの色香をどちらも楽しめる出色の出来栄えだ。ジャッジに向かって銃を構える樋口は、五輪に照準を合わせている。出世作となる予感も漂うフリーで、ファイナルでも樋口の持ち味である豪快な滑りと磨いてきた表現力を世界に見せてほしい。
(写真・西村尚己/アフロスポーツ)
宮原のショートは「SAYURI」(ローリー・ニコル振付)、フリーは「蝶々夫人」(トム・ディクソン振付)で、ともに日本女性を演じるプログラムだ。たおやかな中にも芯の強さがにじみ出る宮原の滑りは「和」を見事に表現している。
ハリウッド映画「SAYURI」の音楽を使うショートでは、宮原のきびきびとして端正なスケートが堪能できる。終盤のステップは、芸者になるため努力してきた主人公が人気芸妓になれた喜びを表現しているという。幼い頃アメリカに住んでいたこともあり英語が得意な宮原は、単語の意味を調べながら映画の原作である洋書を読むことで、演技づくりに役立てているそうだ。一方、フリーの曲はオペラ「蝶々夫人」。「蝶々夫人」の曲は多くのスケーターが使ってきたが、宮原は「すごく有名な曲もあまり他の選手が使っていないような曲も、入り交じったプログラムになっている」と説明している。
「自分にしかできないような、見ている方が何かを感じ取ってもらえるような演技ができたらいいなと思っています」
怪我の影響でジャンプの練習が少なくなる分磨きをかけたというスピンとスケーティングが、宮原のプログラムを見応えあるものにしている。控えめな宮原が芸者の強い視線を演じられるようになったのは、滑れない時間を過ごしてきたことと無関係ではないだろう。
フィギュアスケートはスポーツだが、その醍醐味はスケーターがそれぞれの個性を発揮する芸術性にある。平昌五輪代表の2枠を巡って熾烈をきわめる日本女子の闘いにおいて、自らの魅力を引き出すプログラムは最強の武器となるはずだ。平昌の舞台に立つため、樋口と宮原は名古屋で自分にしかできないプログラムを滑る。
文・沢田聡子
宮原知子と樋口新葉が出場する「フィギュアGPシリーズ ファイナル」はAbemaTVで8日~10日に放送される。
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