兄は日本人、弟はブラジル人、でも2人は実の兄弟。日本最高峰のフットサルリーグ「Fリーグ」で戦う兄弟は、今シーズンの優勝チームを決めるプレーオフ決勝の舞台で、敵同士として相見える――。
酒井・ラファエル・良男とダニエル・サカイ(ユウジ)。兄は2009年に名古屋オーシャンズに加入して以来、9シーズンにわたってプレーしてきた。一方、弟は昨シーズン、半年間だけ名古屋でプレーした後に退団して、祖国へ帰国。今シーズンの途中から、ペスカドーラ町田のオファーを受けて、Fリーグに復帰した。
2人の歩んできた道のりは、まるで正反対だ。
兄・良男は、来日からインパクトを残し続けた。フットサルでは、前線、中盤、最終ラインでそれぞれ、ピヴォ、アラ、フィクソと呼ばれるポジションがあるが、良男はそのどれにも当てはまらない。というよりも、すべてのポジションを1人でこなしてしまうのだ。フットサルでは、そんな選手のことを、イタリア語で「宇宙」を意味する「ウニベルサーレ」と呼ぶ。良男は唯一無二のウニベルサーレだった。
野球でいえば「四番打者」を1番から9番までそろえたような怪物チームの名古屋にあって、良男の個性は光り輝いていた。ゴールを奪ってチームを勝利に導くこともあれば、決定的なピンチを防ぐ守備力でチームを救うこともあった。ピッチ上では、感情を表に出す荒々しいプレーで相手を威圧して、レフェリーから警告を受けることも度々ある。そんな姿も含めて、彼は名古屋に不可欠な存在だった。
そして2015年に日本国籍を取得すると、すぐさま日本代表に選出され、当時の日本代表監督からも重宝されてきた。
弟・ユウジは昨シーズン途中、停滞する名古屋を立て直すために呼び寄せられた。2014年にブラジル代表のメンバーに選ばれた実力者に大きな期待が寄せられたが、チームにフィットできず結果を残せなかった。リーグ連覇を逃すと、名古屋を1年で契約満了となった。
ブラジルに帰国していたユウジだったが、再びFリーグから声がかかった。守備陣に故障者が相次いだ町田が、ユウジに白羽の矢を立てたのだ。来日から間もなくしてピッチに立つと、素晴らしい活躍を見せる。
フィクソとして守備を引き締めるだけでなく、ゴールゲッターに決定的なパスを送り、前線に上がってゴールを奪う。さらに、ミドルレンジからは強烈なシュートをゴールに突き刺す。
町田は、彼の加入以降、23試合で敗戦はわずか「1」。これほどの安定感を町田が手にしたのは、ダニエル・サカイによるところが大きい。
異なる道を歩み、不遇の時期に仲間として同じピッチで戦った兄弟は、時を経て、再び同じピッチに立つ。ただ実は、彼らが激突するのは2試合あるうちの1試合だけ。弟のダニエル・サカイは、プレーオフ準決勝で2枚目の警告を受け、プレーオフ決勝の初戦が出場停止となる。勝負は、第2戦に委ねられた。
兄は、失墜したクラブの威信を取り戻すため、弟は、昨年果たせなかったクラブの初優勝を手にするため。Fリーグで浮き沈みを味わった“サカイ兄弟”の戦いには、どんな結末が待ち受けているのか――。
文・本田好伸(futsalEDGE)
20日、21日に行われる「名古屋オーシャンズ vs. ペスカドーラ町田」のプレーオフ決勝の模様はAbemaTV(アベマTV)のSPORTSチャンネルで、両日ともに16時15分から生中継される。
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