優勝した次の日にクビに……。屈辱を乗り越えた“キング・オブ・Fリーグ”森岡薫は古巣を倒せるか?

 読売ジャイアンツはかつて、9年連続でセ・リーグを制し、日本シリーズで優勝して頂点を極めた。それは1973年、もう45年も前のこと。2度と訪れることはないかもしれない、輝かしい栄光――。

 集団競技という、個人競技よりも不確実性が増すスポーツで、しかもトップ選手同士がしのぎを削り合う世界において、1つのチームがずっと勝ち続けるというのは、もはや夢物語かもしれない。


 サッカーにおいて、Jリーグは鹿島アントラーズの3連覇、プレミアリーグはマンチェスター・ユナイテッドの3連覇、リーガ・エスパニョーラはレアル・マドリードの5連覇が各国国内リーグの最高記録。欧州主要リーグの最高は、セリエAで現在も記録を更新し続けている、ユヴェントスの6連覇だ。


 そんな例外を除けば、選手も監督も、クラブオーナーやフロント陣でさえもシーズン毎に変わる現代スポーツで優勝し続けるのは至難の技だ。集団競技におけるそれは、もはや不可能とさえ思える。


 だが、そんな中で、2007シーズンから2015シーズンまでの9年にわたって“V9”を達成したチームがある。国内最高峰のフットサルリーグを戦う名古屋オーシャンズだ。彼らは9年間で“絶対王者”の名を冠してきた。


 だが、彼らもまた、連覇の記録は「9」で途絶えた。絶対的な強さを持ってしても、自チームの停滞や、ライバルチームの急成長など、様々な困難を乗り越え続けることはできなかったのだ。チームとしては。


 2016年1月、名古屋が9連覇を達成した2日後、フットサル界に衝撃的なニュースが走った。名古屋をエースとしてけん引してきた森岡薫が来シーズンの契約を更新しないことを言い渡されたのだ。もし、リーグ優勝を飾ってすぐ、メッシがバルセロナからクビを宣告されたとしたら……きっと、スペインどころか、世界中で暴動が起こるかもしれない。


 新監督と共に若返りを図ると同時に勝利を追い、次の世代においても勝ち続けられるチームをつくる――。名古屋にとって36歳の森岡を戦力外にしたのは、そのためだった。だが、昨シーズンの名古屋は、プレーオフに「リーグ1位」で進めなかっただけではなく、ファイナルラウンドに進むことさえなく敗れ去った。


 そんなプレーオフの最中に、ファイナルへと勝ち上がったペスカドーラ町田で「1人10連覇」という偉業に挑む選手がいた。そう、森岡だ。名古屋が敗れた瞬間、Fリーグで唯一「連覇を継続できるかもしれない選手」が森岡であり、町田に移籍していた彼は、誰も到達できない記録へと突き進んでいた。


 しかし、挑戦は失敗に終わった。町田はファイナルでシュライカー大阪に肉薄したものの、あと一歩のところで初優勝を逃した。あれから1年。町田は再び、プレーオフを勝ち上がって決勝の舞台にたどり着いた。

「僕は、全選手の中で唯一、すべての決勝を戦っている」


 森岡は、今年も町田のエースとしてピッチに立ち続けてきた。コンディションは正直、それほど良くない。ただ森岡はいつも「次の試合には出られなくなってもいいという気持ちで戦っている」。1つのプレーに全力を注ぎ、1本のシュートに魂を込める。だから彼のプレーは、多くの人を惹きつける。森岡はそうやって“キング・オブ・Fリーグ”と呼ばれるFリーグナンバーワン選手のポジションを突っ走ってきた。


 町田は今週末、名古屋とのプレーオフ決勝を戦う。「特別な感情はない」。森岡はそう言うが、きっと、誰よりも強い思いがあるだろう。6年間、ファイナルを戦ってきた男。Fリーグ創設から11年間、勝ちまくってきた男。森岡は最後、どんな輝きを放つのか。「王者」の称号は、キングにこそふさわしい――。

文・本田好伸(futsalEDGE)


 ペスカドーラ町田が出場する20日、21日のプレーオフ決勝の模様はAbemaTV(アベマTV)のSPORTSチャンネルで、両日ともに16時15分から生中継される。


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