幕内最軽量・石浦の異色な経歴 ハリウッド映画オーディションにレゲエ・ヒップホップ愛

 “すべての取組が体重無差別級”というのが大相撲の面白さで、今場所の幕内力士42人の内、最重量は逸ノ城の215キロ、最軽量は石浦の120キロ。200キロVS120キロとか、ありえねぇ!と思うかもしれないけど、ありえるんだ、これが。ありえて、しかも勝つこともあり、事実120キロ石浦は215キロ逸ノ城に何度か勝っている。すげぇ、でしょう? こうした軽量力士は「小兵(こひょう)力士」と呼ばれ、殊に愛でられるのが相撲界です。

 さて、その石浦、小学校2年生から相撲を始め、お父さんは相撲名門高校の監督。相撲エリート街道をばく進か?と思いきや、「もう相撲はいいや」と大学卒業後にオーストラリアに留学し、そこでハリウッド映画「ウルヴァリン」(ヒュー・ジャックマン主演で「X-MEN」のスピンオフ作)のオーディションにも合格していたという異色の経歴を辿ってきた人。


 でも、その留学中に「自分は何がしたいんだろう?」と人生を振り返り、「やっぱり相撲しかない」と相撲界へ入った。迷ったけど、原点へ。こういう経験が石浦に人としての深みを与えたであろうことは想像に難くない。


 石浦の面白さはそれだけじゃなく、ストリート・カルチャーやアートに造詣が深いファッショニスタであること!「北斎の幽霊画が大好き」だからと、自ら考えた「生首と幽霊」を描いた着物で場所入りしたり(デザインはタトゥー・アーティストGAKKIN氏)、セレブ御用達ブランドのクリスチャン・ルブタンに、同社のバックパックCabadoを持つ姿がツイートされたり、マクラーレン東京から化粧廻しを贈られ、マクラーレンで場所入りしたりも!


 そんな実績(?)が買われてファッション/カルチャー誌「WARP MAGAZINE」に、グラビア&インタビューで登場したこともある。さらにレゲエとヒップホップを愛し、Twitterで伝説のヒップホップ・アーティスト、トゥパック・シャクールが好きと書いていたこともある。


 しかし、石浦からは、なんというか、黒人文化への深い理解とリスペクトを感じる。これもツイートで知ったけど、60年代NYハーレムの現実を草の根レベルで描いた、写真家・吉田ルイ子の名著「ハーレムの熱い日々」なども読んでいるとか。北斎への愛情から幽霊画の着物を作るなど、薄っぺらなオシャレ番長じゃないところが、この人のホンモノ感だわ~と思う。


 そういう求道的で真面目なところはもちろん相撲に現れていて、2016年11月場所で新入幕を果たすと、いきなり10勝5敗で敢闘賞を受けた。それでも「身体が勝手に動いてくれた」とか、自分の相撲を「金を返せという相撲です」と反省する謙虚ぶりで、その無欲な求道者っぷりに相撲にうるさい方々も目を細める。

 しこ名の石浦は本名、石浦将勝から。初場所直前の1月10日に28歳になったばかり。鍛え抜かれた身体で見せるスピーディーな相撲に、ホレボレする。【和田静香】


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